京大呼吸器外科 京都大学医学部附属病院呼吸器外科

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研究

再生医学

臓器移植治療の問題点として、ドナー不足、拒絶反応、免疫抑制、悪性腫瘍の発生、外科的合併症などがあげられ、その解決法が模索されていますが、特にドナー不足と拒絶反応についてはこれまでのアプローチでの解決は困難であす。

そこで、臓器移植の代替としての観点から、細胞移植による組織機能の修復や、幹細胞から組織・器官を形成し、欠損組織・臓器の補填をめざす研究が近年進められており(再生医療)、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)株樹立の報告以来、社会的にも臨床応用への期待が高まっています。

細胞移植治療は、すでに神経細胞、軟骨細胞、心筋細胞、骨髄細胞などを用いて臨床応用が進行しています。また、次々に解明される増殖因子の利用により、内在組織幹細胞を利用した修復再生も試みられています。さらに、人工材料と培養細胞の併用による臓器の生体外構築も可能となることが予想されます。

一方、胚性幹細胞を用いた再生医療では,移植における拒絶問題、臓器不足に対して、
(1) 除核卵子への患者本人の体細胞核移植によるorder made ES、
(2) 遺伝子ノックアウトにより抗原性を除去したuniversal ES、
(3) 成体体細胞から胚性幹細胞への脱分化、
等のアプローチが考えられています。

われわれは倫理的・社会的課題に配慮しつつ、次のような研究を進める予定です。

人工材料の開発並びに細胞の融合
胚性幹細胞の培養・維持に関する基礎研究
幹細胞から血管内皮細胞への分化
呼吸器における発生、分化誘導の研究
幹細胞からの3次元臓器構築

呼吸器外科領域における再生医学研究は端緒についたばかりですが、将来、気管・気管支、血管、肺組織などの再生が期待されます。

《1》現在の研究

  1. 胚性幹細胞(ES細胞)の試験管内での分化誘導とその応用
  2. マウスES細胞における血管分化の解明
  3. リンパ組織発生の研究-発生生物学的手法の応用をめざして
1. 胚性幹細胞(ES細胞)の試験管内での分化誘導とその応用

近年のヒトES細胞の樹立以来、ES細胞を用いた技術の再生医療への応用が期待されるようになりました(Fig.1)。また、ES細胞の培養・維持に関する基礎研究は以前よりマウスにおいて行われてきました。そこで、われわれはマウスES細胞を材料に、発生途上の細胞と細胞環境の関係についての研究をはじめました。幹細胞を試験管内で操作し、生体内の微小環境で起こる現象を再現することにより、細胞の分化機構を理解しようとしています。

具体的には、まずES細胞を起点として、試験管内での分化誘導を行い、特異的な細胞表面分子の発現を利用して目的とする細胞を純化します。さらに増殖因子やフィーダー細胞を利用して、目的の細胞系譜へ誘導します。この実験系を用いて、幹細胞の様々な運命を決定している微小環境の分子機構について研究し、その多様な活動を人為的に操作する方法を開発することが目標です。ここで同時に、細胞の運命を決定するメカニズムを理解することも重要な目的になります。

将来の展望として、試験管内ES細胞分化技術を用いて、臓器における分化決定の分子メカニズムを明らかにできれば、やがて分化の方向性を操作できるようになり、再生医療への貢献ができるであろうと考えています。

Fig.1:胚性幹細胞と再生医療の展望 Fig.1

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2. マウスES細胞における血管分化の解明

血管は個体発生において最初に発達する臓器であり、再生医学の中で、血管新生は大きなトピックの一つです。その中でも、血管の発生そのものといえる動脈、静脈の分化、毛細血管網の形成は重要です。最近、動静脈のマーカーとなりうる分子が、いくつか、候補として挙がり、その分化のシグナル伝達も徐々に解明されつつありますが、いまだ十分な報告はありません。われわれのグループでは、マウスES細胞から中胚葉を経て血球系細胞や血管内皮細胞、心筋細胞への分化誘導が可能です。その細胞の系や最近開発されつつある各種抗体を用いて、細胞レベルにおける血管組織の分化のメカニズムの解明を行うことがテーマの一つです。また一方で、各種キメラマウスやノックアウトマウス、胎児マウスの染色(Fig.2)を用いて組織レベルでの血管の分化の解析を施行しています。

心停止ドナーからの肺移植を想定した研究 資料 Fig.2

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3. リンパ組織発生の研究-発生生物学的手法の応用をめざして

生物は発生において細胞分裂を繰り返すと同時に、個々の細胞の分化によって組織から臓器としての複雑な役割を果たす構造を構築します。特定の臓器の発生機序に関してはなお未知の部分が多く、なぜその臓器がある一定の時期に、ある一定の場所に、ある一定の形式を持って存在するのか、多くは疑問のままです。これまでの研究では、分化にかかわる遺伝子に対して変異ないしノックアウト等の分子遺伝学的操作をおこなうと、致死的となる場合や癌細胞に類似した表現型を持つ場合が認められてきました。従って、発生生物学による研究の応用として、組織の正常な増殖、構築のみならず、発癌、癌の進行にかかわる研究へ発展する可能性があります。

現在私たちの研究チームでは、マウスをもちいて胎生期のリンパ節発生に関する研究をすすめています。リンパ節は比較的単純な構造であり、近年急速に関心が高まり理解が深まりつつある組織です。研究の内容は、二次リンパ組織である腸間膜リンパ節(Fig.3)の発生形式およびシグナル伝達の解明です。リンパ節の分化には血液由来の細胞が大きく関わること、また、リンパ節と周辺臓器であるリンパ管が癌の進展にも関わることから、リンパ節の発生の研究の成果から、将来、癌治療の臨床へ生かせる知見を得たいと考えています。

Fig.3:マウス胎仔の腸間膜リンパ節原基を特異抗体A7Rで染色(蛍光緑、写真中央)、中央左下方に腸間膜動脈をみとめる。
Fig.3:マウス胎仔の腸間膜リンパ節原基を特異抗体A7Rで染色(蛍光緑、写真中央)、中央左下方に腸間膜動脈をみとめる。

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