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私が京都大学呼吸器外科教室の責任者となって8年半が経過しました。おかげさまで教室は充実期を迎えているように思います。素晴らしい人材が集まったおかげで、素晴らしい診療や研究ができる教室に成長しました。これまでの経緯を振り返ってみようと思います。
腫瘍外科と肺移植という二つの分野の発展を大きな目標に平成19年10月にスタートを切りました。手術症例数は順調に増加し、平成19年には年間267例であった手術症例数が平成23年には469例まで増加し、大学病院としてはトップクラスの手術症例数となりました。数だけでなく、内容的にも、大学病院ならではの技術的に難しい手術や、リスクの高い手術を多く行ってきました。
比較的早期の肺癌に対して、胸腔鏡手術が標準術式になりました。肺癌手術の80%以上で肋骨を切らずにすむので、患者さんの回復は極めて良好です。さらに、平成23年には、胸腔鏡手術の進化版ともいえるロボット支援手術(ダビンチ手術)を導入し、平成27年までに38例(肺癌26例、胸腺12例)を実施しました。平成24年には、3次元画像解析システムであるSYNAPS VINCENT を導入し、複雑区域切除などが安全に行えるようになりました。一方、進行肺癌に対しては、超音波気管支鏡によって縦隔リンパ節転移を証明し、術前化学放射線療法後に切除を行う集学的治療が確立しました。縦隔リンパ節転移がある症例でも50%以上で長期生存が可能となっています。周辺臓器に直接浸潤しているT4肺癌に対しても集学的治療を積極的に行い、肺移植の手術手技を応用して完全切除を行っています。
肺移植の症例数は順調に増加し、平成27年には、27例の肺移植(脳死肺移植15例、生体肺移植12例)を行いました。今では、日本の肺移植の約40%を京都大学で行っています。3Dプリンターを使った模型でシミュレーションすることにより、世界で初めての反転生体肺移植にも成功しました。http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/outline/pdf/koho104.pdf
平成28年4月までに行った肺移植数は136例となり、呼吸困難に苦しむ多くの患者さんが社会復帰を果たされました。この中には、19人の子供さんが含まれています。平成26年のヨーロッパ呼吸器外科学会(ESTS)で京都大学の肺移植成績を報告したところ、600を超える演題の中から、最も優秀な演題に贈られるBrompton Prize を受賞することができました。多くの医療従事者が協力するチーム医療のおかげと感謝しております。
基礎研究としての、癌研究、肺移植研究、再生・医療工学研究も充実し、今では、年間50本近くの英語論文として、世界に発信できるようになりました。これを可能にしているのが素晴らしい人材です。8年間で53名が新しく京都大学呼吸器外科同門に加入し、38名の大学院生が誕生しました。現在の教室員は、スタッフ9名、医員4名、大学院生19名の32名です。呼吸器外科教室としては、おそらく日本で最大の教室と思います。教室員は自由な雰囲気の下、さらなる高みを目指して切磋琢磨しています。欧米では、9名の留学生が頑張っています。
平成22年には、2ヶ月間のNHKの密着取材を受け、“NHKプロフェッショナル仕事の流儀―絆を、最高のメスに”として放映されました。放映に恥じない医療を提供していきたいと思っています。http://www.nhk.or.jp/professional/2010/1018/
平成28年5月12-13日には、第33回日本呼吸器外科学会総会を、京都で学会長として主催させていただく予定です。大変光栄であり、重責を感じています。既に、日本の呼吸器外科は世界でも屈指のレベルにあります。2000名近くが参加する本学会が、日本の呼吸器外科の道しるべとなることを念じております。
平成28年4月
京都大学医学研究科器官外科学講座呼吸器外科学 教授
伊達洋至