京大呼吸器外科 京都大学医学部附属病院呼吸器外科

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ごあいさつ

伊達洋至( 京都大学大学院医学研究科器官外科学講座呼吸器外科学 教授)

 早いもので、私が京都大学呼吸器外科教室の責任者となって2回目の春を迎えました。“肺移植の再開”と“腫瘍外科としての発展”という大きな二つの目標に向けて平成19年10月にスタートとして1年半が経過しました。教室員の協力のおかげで、肺移植再開、手術数の増加などうれしい報告をすることができます。

肺移植の再開

  新しくなった肺移植チームによって、平成20年6月5日に生体肺移植を再開することができました。患者さんは6歳女児、Stevens-Johnson 症候群後の閉塞性細気管支炎でした。7ヶ月間、人工呼吸器で生命を維持していました。肺を提供したのは母親です。母親の右下葉を患児の右肺として移植しました。
この移植手術は、3つの点で医学的に特殊なものでした。

 1点目は、生体肺移植では通常二人のドナーが必要ですが、今回は血液型の関係で母親のみがドナーであったことです。このような一人ドナーからの手術は世界で9例目でした。

 2点目は、人工呼吸器が7ヶ月も付いていたことです。このような長期の人工呼吸器管理下での肺移植は日本では前例がなく、世界的にも稀です。

 3点目は、患児が小さいということです。生体肺移植では、世界で2番目に小さい患者さんでした。絶対失敗が許されない状況での再開第一例目として、このようなリスクの高い症例に移植を行うことになりましたが、私は、「この手術は必ず成功する」と信じることができました。手術は30名以上の協力を得て順調に進行し、人工心肺を使用して5時間で終了しました(写真1)。10ヶ月経過した現在、患児は復学し、元気に遊びまわっています(写真2)。

  • 平成20年6月5日生体肺移植手術直後のスタッフ
    平成20年6月5日生体肺移植手術直後のスタッフ
  • 生体肺移植後3ヶ月で元気を取り戻した少女
    生体肺移植後3ヶ月で
    元気を取り戻した少女

 その後も大変困難な症例への生体肺移植を合計4例行いました。いずれの症例も順調に回復しています。このような良好な結果が得られたのは、心臓血管外科、麻酔科、呼吸器内科、手術部、集中治療部、医療安全管理部、看護部、感染制御部、検査部、薬剤部、理学療法部など、京都大学医学部附属病院の各科各分野の良好な協力関係のたまものだと思っております。

 平成21年3月13日には、脳死肺移植の再開も承認されました。現在4名の患者さんが日本臓器移植ネットワークに登録して待機中です。近日中に登録予定の患者さんも10名ぐらいおられます。呼吸が苦しい状態で、いつになるかわからない脳死肺移植の順番を待つのは大変つらいことだと思いますが、希望をもって待っていただきたいと思います。

腫瘍外科としての発展

京都大学で私に与えられたもうひとつの使命は、腫瘍外科としての更なる発展をめざすということです。平成19年は256例(原発性肺癌121例)であった手術症例数が、平成20年は329例(原発性肺癌145例)に増加しました。平成21年に入って手術症例数はさらに増加しています。症例数以上に重要なのはその内容です。超高齢者の肺癌手術、放射線化学療法後の肺癌切除、中皮腫に対する胸膜肺全摘術、人工心肺下の肺手術などのリスクの高い手術が多く含まれていますが、手術関連死亡ゼロを達成することができました。胸腔鏡手術は、もはや特殊なものではなく、肺癌手術の大部分に応用しています。さらに、胸腺腫や重症筋無力症にも胸腔鏡を導入いたしました。
研究部門もその成果を上げつつあります。他の教室や、外部施設とのコラボも複数が軌道に乗りつつあります。多施設共同研究への参画も少しずつ進んでいます。JCOG協力施設として認定を受けることができたのも大きなニュースです。京都大学呼吸器外科の関連病院では、一年間に2,300例もの肺癌を切除しております。これは、全国の手術症例の約10%に相当します。このような膨大な手術症例数を誇る私たちには、多施設共同研究に積極的に参加し、新たなエビデンスを発信する責務があると考えています。

うれしいことに

 平成21年4月から、6名の新しいメンバーが京都大学呼吸器外科の同門に加わってくれることになりました。外科医離れが進む中、6名もの呼吸器外科専門医を目指す若い力を得ることができたことは、大変な喜びです。豊富な症例数を有する関連病院と協力しながら、充実した研修を提供したいと思います。さらに、6名の呼吸器外科大学院生が誕生しました。肺移植や肺癌などの分野で、世界に発信できる新しい研究を期待しています。
そして、私が非常にうれしく感じているのは、教室の良い雰囲気と評価です。京都大学呼吸器外科に脈々と流れる良い意味での師弟関係が根付いているからだと感じております。
関係各位のますますのご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。

平成21年3月

京都大学大学院医学研究科器官外科学講座呼吸器外科学 教授
伊達洋至

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