胸腺癌におけるトランスクリプトームおよび全コピー数解析
胸腺癌は胸腺に発生する上皮性悪性腫瘍で、日本胸部外科学会の報告では2013年の日本全国における手術件数は279例とまれな疾患でありますが、早期よりリンパ節転移などをきたし、手術のみでの根治は期待しにくい悪性度の高い癌です。手術に放射線治療や、化学療法を組み合わせる事による治療効果上乗せが期待されますが、2014年の報告ではカルボプラチン・パクリタキセル併用による化学療法の有効率は36%と不十分であり、今後肺癌におけるEGFR阻害薬(ゲフィチニブ、エルロチニブ)の様な、分子標的治療薬による治療効果の改善が求められます。
分子標的治療薬による治療を行うためには、その標的となる癌特異的な遺伝子異常を同定する事が重要になります。先述のEGFR阻害薬においては、いくつかの遺伝子変異がその治療効果と相関することがすでに報告されています。胸腺癌においては文献上では遺伝子変異の頻度は多くないと報告されており、私たちは、胸腺癌の発癌には遺伝子変異ではなく遺伝子の異常な増幅がその発癌の原因となっていると考えています。その異常を同定するために、表題のように胸腺癌組織における、全遺伝子の発現量の多寡(トランスクリプトーム)や遺伝子の数の変化(コピー数)の解析を行います。
先述のようにまれな疾患ではありますが、当院では近年多くの症例を経験しており、解析に必要十分な標本数を確保できたため、この標本を用いて上記の遺伝子解析を行い、その結果を過去10年間の当院における胸腺腫・胸腺癌症例の病理データおよび治療効果等の臨床データを用いて検証することで、有意な遺伝子異常を抽出する予定です。
患者さんの臨床データは通常に診療を受けていただく際に記録されたデータであり、また遺伝子・病理データはすでに切除後の組織を用いて検査を行いますので,特別に患者さんに御負担いただいて収集するものはございません。また癌に特異的な遺伝子異常を調べる検査ですので、患者さんの正常な体細胞の遺伝子情報が取得できる検査では無いことも申し添えておきます。過去の診療記録から得られた資料を用いますので、同意書は頂きませんが、患者さんの情報は匿名化され、プライバシーは保護されております。この研究で得られた結果は,専門の学会や学術集会に発表されることがありますが,患者さん個人に関する情報が外部に公表されることは一切なく、本研究により患者さんご自身に治療上あるいは社会的な不利益が生じることはありません。
データ利用の目的と趣旨をご理解いただきますよう,よろしくお願い申し上げます。
この患者さんを対象とした研究に対してご質問のある方、また、手術を受けられた方が未成年の場合や意思疎通が十分にできない方の場合で、保護者もしくは身内の方でご質問のある方、もしくはご自身のデータを利用されたくない方は呼吸器外科医師または当科データベース管理担当者(毛受 暁史:075-751-4975)にいつでもお申し出ください。なお,もし研究協力を拒まれたとしても患者さんに不利益は一切生じませんのでご安心ください。